サムトの婆
月曜日, 9月 29th, 2008
「黄昏(たそがれ)に女や子供が家の外に出ていると、よく神隠(かみかくし)にあうことはどこも同じ。松崎村の寒戸というところの民家にて、若き娘梨の樹の下に草履を脱ぎおきたるまま行方を知らずなり、三十年あまり過ぎたりしに、ある日親戚知音の人々その家に集まりてありし処へ、きはめて老いさらぼいてその女帰り来たれり。いかにして帰ってきたかと問へば、人々に逢いたかりしゆえ帰りしなり。さらばまた行かんとて、ふたたび跡を留めず行き失せたり。その日は風邪の激しく吹く日なりき。されば遠野郷の人は、今でも風の騒がしきひには、けうはサムトの婆が帰って来そうな日なりという。」
「遠野物語八話」より
現在の女性誘拐事件といったところでしょうか。
興味深いのは、なんとか一度里に戻って里のみんなに逢いたいと誘拐犯に懇願し里に戻ってきた女性ですが、誘拐犯に情を持ってしまったのか、再び誘拐犯の元へ帰っていくという切ないお話です。それとも帰らざるを得ない絶対的な力を持った誘拐犯であったのかも知れません。