やまなし
土曜日, 4月 4th, 2009
「クラムボンはわらったよ」の謎
小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。
一、五月
二疋(ひき)の蟹(かに)の子供らが青じろい水の底で話てゐました。
「クラムボンはわらつたよ。」
「ラムボンはかぷかぷわらつたよ。」
「クラムボンは跳てわらつたよ。」
「クラムボンはかぷかぷわらつたよ。」
上の方や横の方は、青くくらく鋼のやうに見えます。
そのなめらかな天井を、つぶつぶ暗い泡が流れて行きます。
「クラムボンはわらつてゐたよ。」
「クラムボンはかぷかぷわらつたよ」
「それならなぜクラムボンはわらつたの。」
「知らない。」
つぶつぶ泡が流れて行きます。
蟹の子供らもぽつぽつぽつとつゞけて
五六粒泡を吐きました。
それはゆれながら水銀のやうに光つて斜めに上の方へ
のぼつて行きました。
つうと銀のいろの腹をひるがへして、
一疋(ぴき)の魚が頭の上を過ぎて行きました。
「クラムボンは死んだよ。」
「クラムボンは殺されたよ。」
「クラムボンは死んでしまつたよ………。」
「殺されたよ。」
「それならなぜ殺された。」
兄さんの蟹は、その右側の四本の脚の中の二本を、
弟の平べつたい頭にのせながら云(い)ひました。
「わからない。」
魚がまたツウと戻つて下流の方へ行きました。
「クラムボンはわらつたよ。」
「わらつた。」
■クラムボンの正体
蟹の吐く泡説
小学校の授業で生徒に「クラムボンはなんだと思いますか?」
という質問をすると必ず生徒から出てくる回答だそうです。
■水面に移った月
これも必ず生徒から出てくる回答のようです
■母蟹説
登場する生物に母蟹がいないことから母蟹ではないかという説もあります。僕は「やまなし」を読んだ時クラムボンは母蟹と思いました。
■蟹語説
蟹語なので理解不能という説。
■解釈してはいけない説
様々に想像できるところに価値があるとされ、
研究者が意味を固定することを避ける傾向にあるようです。
いずれにしろクラムボンがなぜ笑ったのか?
そして、クラムボンは事故や病気で死んだのか?
あるいは何者かによって殺されたのか不明。
ただクラムボンは死んでもうこの世には存在しないことは確か。
☆兄と弟蟹は、クラムボンが「かぷかぷわらった」りしたことを話題にし
ているので、クラムボンは相当重要なかけがえのない身近な存在。
「わらった」というのだから、感情を持った存在。
■クラムボンがわらった時はいつか?
兄弟蟹の脳裏に強く焼きついた記憶であるから、おそらくクラムボンが死んだとき、弟蟹にいわせれば何者かに殺されたときにクラムボンは笑ったと思われる。
クラムボンが死ぬ時(殺されるとき)に笑ったのであれば兄が弟に発した「それならなぜクラムボンはわらったの」はかなり重要な質問だと感じます。
しかし、弟は即座に「知らない」と答えています。
兄は自分自身に向けてこの問いを突きつけているのでしょう。
そしてこの問いを生きている限り問い続けていくのでしょう。
また、弟も成長するにしたがい、兄と同じく、この問いを発していくのだと思います。
それならば弟がまだ幼くして何もわからないような存在だから「わからない」と答えたのか?
これは「わからない」という答え以外に誰も説得力のある答えを出すことができないのです。
誰にもクラムボンが死んでしまった理由を説明することはできないと思います。